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第2回 ポケットについてのショートショート ~お金が足りない田上友也と、彼の古着の年~

田上友也

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 この企画は古着好きの詩人・田上友也が自分のお気に入りの古着から着想を得たショートショートを綴っていくコーナーです。


「寒いね」
 とあかりが言った。
「ね、寒い」
 と俺は言った。
 高校で初めて彼女ができた俺はあかりとちょっと学校からは遠い駅へ歩いて行き、学校終わりのちょっとしたデートみたいのをいつも楽しんでいた。
 あかりは
「寒いから」
 と言って俺の制服のズボンのポッケに手を入れる。俺たちはもう数えきれないほどセックスをした。あかりも俺も最初は手探りだったけれど、今は随分セックスにも慣れたと俺は思っていた。あかりが俺とのセックスがはじめてのセックスだったかは知らない。聞きたいけれど、なんかダサいから聞いていない。あかりは最初よりかなり積極的になってきていて、さっきポケットに入れた手で、俺のチンコを触っている。触っているというよりはたまにツンツンと手が当たるという感じだろうか。俺はあかりの方を見る。あかりは
「どうしたの?」
 と言う。俺はあかりのおっぱいを制服の上から触れようとして、あかりは俺の手を払って走り出す。あかりはあはははーと笑いながら、結構な速度で走っている。俺はくそーと言いながら、あかりの後を追いかけた。

 俺たちは高校を卒業してしばらくしてから別れた。理由は他に好きな人ができたからだった。俺もあかりも他に好きな人ができたから。俺はそれでもあかりの方が好きだったから、あかりと別れたくなかったが、あかりは目移りしたら終わりだよと言って、結局会ってくれなくなった。それがなぜか共通の友達を通して、再会することになった。居酒屋で俺とあかりは突然再会することになった。あかりは変わってなかった。多分あかりは変わったんだろうけど、俺はあかりは変わっていないと思った。そう思いたかっただけなのかもしれない。俺がタバコを吸い始めると、あかりは
「変わったね~」
 と俺に言った。
 俺は
「そう?」
 と言った。
 それからはほとんど他愛のない話だった。どこに就職するかとか、どんなサークルに入っていたかとか、お酒が飲めるようになったね~とか。そんな普通の大学生の飲み会が終わって解散になったとき、俺とあかりの再会の機会を作ってくれた共通の女友達が、
「あかりちょっと違う路線だから、たかしがその駅まで送ってあげてよ。か弱いレディーだからね」
 と言い残して、すぐタクシーに乗ってしまった。俺は金持ちかよと思った。
 あかりに
「あー俺がタクシー代出すから、タクシーで帰りな」
 と言ったら、
「いや悪いし、ちょっと夜風に当たりたいから」
 と言って、じゃ、と歩き出しだが、流石に一人で行かせるわけにはいかないと俺は思ったのか、それとも一緒に少し話したいと思ったのかは定かではないが、結局一緒に駅まで歩くことになった。
「寒いね」
 とあかりが言った。
「ね、寒い」

 と俺は言った。

 俺はあの日のポケットに手を入れて俺のチンコを触ってくれていたあかりのことを思い出した。そして、勃起していた。なんか嫌だなと思った。でも、なぜか今日はポケットのついていないカーゴパンツを履いていた。なぜだろうと思った。ポケットのついていないパンツなんてこの世を探して回ってもあまりないだろうに、なぜかその日に限ってポケットのついていないパンツを履いていた。そして、俺は少し落ち込んでいる自分を見つけた。ということは、この後もしかしたらあかりが俺のポケットに手を入れてくれて、チンコをまた触ってくれるのではないかという期待をしていたということだ。あかりは
「今日楽しかったね」
 と言った。
「あー」
 と俺。
 空気を読んでの言葉だろうか。それとも、本音だろうか。俺には全くわからなかった。そして、駅に着くと、あかりは
「ありがとうね~また行こうね~」
 と言って、改札にSuicaをかざして、ピッという音がした。
 俺もあかりに
「こちらこそ、また行こう」
 と言って、手を振った。もう勃起はおさまっていた。そんなに家まで遠くないし歩いて帰ろうかなと思って、ポケットに手を突っ込もうとしたけれど、そこにはポケットはなかったことを俺は思い出した。



商品名:オランダ軍ダブルファイスカーゴ

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