この企画は古着好きの詩人・田上友也が自分のお気に入りの古着から着想を得たショートショートを綴っていくコーナーです。
茜は自分の顔がデカいことがコンプレックスらしいが、俺と一緒に自撮りをした写真を待ち受けにしていて、その写真では俺の方が明らかに顔がデカい。
正直なぜ顔がでかいことがコンプレックスなのかはよくわからない。俺は別に顔がデカくて損したことは一度もないように思う。
セックスのとき、太ももをモニモニされるのを茜は少し嫌がる。俺は女性の太ももがとても好きだから、セックスしているときには特に触りたくなる。
茜は俺が太ももが好きなことを知っているから、絶対触らないで!という感じではないが、あまり触られたくない雰囲気を感じる。そもそもまんこにちんこを触れさせるのは恥ずかしくなくて、挿入されたときに太ももを触られるのは恥ずかしいというのも俺には理解できないが、そういうもんなのかなと思う。
茜と初めてあったときは夏で、とても暑い夏だった。俺はその夏に人生で初めて麦わら帽子を買った。そもそもキャップは被る方だったが、ハットはほとんど被らなかったけれど、なんとなく気分で買ってみた。そしたら、思ったよりも麦わら帽子は涼しいことに気がついた。それから夏は麦わら帽子を被っている。そういえば茜は出会ったときから、小顔効果みたいな宣伝には妙に食いついていたように思う。
俺はたまにその麦わら帽子を茜に被らせる。それは外に出て日差しが強いときとか関係なく、家の中とかでも突然被らせる。そして、
「この麦わら帽子いいでしょ」
と言う。
小顔ローラーをしている茜は
「いやなんで被らせんの!」
と笑いながら言う。
なぜ被らせるのかというと、茜の頭は俺より全然小さいことを感じてもらうためだ。俺の麦わら帽子は茜にとってはぶかぶかだから、茜は別に顔デカくないよという意味合いで帽子を被らせる。そして、俺はそれを伝える。
「なんでって。茜自分の顔が大きいと思っているみたいだけど、そんなことないし、仮に大きかったとしても、俺は別に気にしないし、今のままで充分可愛いよ」
茜はちょっと節目がちになって
「うん、ありがとう」
と言って、また小顔ローラーを始める。
茜と別れるときにこんなことを言われた。
「翔くんは私のコンプレックス受け入れてくれてたけど、正直そういうことでもないんだよね。確かに嬉しくないわけじゃないんだけど、それじゃ解決じゃないというか、本当に嬉しいは嬉しいんだけど、なんか、ごめん、これは私の問題なのに、でも、なんかそんなに単純なことじゃないっていうのは知っといて欲しいかも、ごめん、なんか意味わかんない感じになっちゃって、でも、好きでいてくれたのは伝わってるし、ありがとうって思ってたのも本当。」
俺はその言葉に答えなかった。じゃあどうすればいいんだよと思ったから。素直に本当のことを伝えて納得してくれないならどうしたらいいんだろうか。本当のことなのに、言葉にして届けた途端に、「そんな単純なとこじゃない」ことになってしまうのはなぜだろう。なんかめんどくさいなと思った。俺は茜と別れてから、そういう得体の知れない単純じゃないことをとても憎んだ。けれど、この憎しみをどこに向ければいいのか、誰に向ければいいのかわからなかった。
淳とカフェで茜と別れたことを伝えた。淳は
「そっか。じゃあとりあえず風俗行こうぜ!風俗!」
と言った。俺はそれをとても嬉しく思った。淳は悲しいムードを続けさせないためにそう言ってくれたのが、よくわかった。でも、俺の頭の中には
「そんな単純なことじゃない」
と言った茜の表情がはっきりと浮かんでいた。
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