この企画は古着好きの詩人・田上友也が自分のお気に入りの古着から着想を得たショートショートを綴っていくコーナーです。
さっき初めて付き合った彼女と別れた。それは冬だった。結構寒い冬で、クリスマスと正月が過ぎた頃だった。彼女は特に別れたい理由を言わなかった。だから俺は理由を考えたけど、わからなかった。もしかしたら、単純に俺に飽きただけかもしれない。そういう人ではないと俺は思っていたけれど、実際にそういう人でないかどうかはわからない。俺はさっき別れた彼女からもらったダウンを着ている。彼女は今日俺があげた赤いコートを着ていなかったから、なんでやと思ったけど、言わずにいた。そしたら、今日は彼女が俺に別れを切り出す日だったから来てこなかったんだとわかった。今日も普通にデートした。昼頃に集合して、少し公園歩いて、ご飯食べて、古着屋行ったり、本屋行ったり、また公園を歩いたり、それで夜ご飯を食べて、俺の家か、彼女の家に行って、セックスをお互い気の済むまでして、そのまま泊まりといういつもの普通のデートになるかなと思っていたけど、今俺は一人で夜飯を何にしようか考えている。考えているようで、ボーッとしていて、今日昼間に散歩した公園をぐるぐるぐるぐる回っていた。彼女は夜ご飯を考えるのに少し公園のベンチに座って決めようと提案をしてきた。それは嘘で、本当は別れ話をしたかっただけだった。彼女は単刀直入に
「あきらは私のことどう思ってる?」
と聞いてきた。
俺は素直に
「どうって言われても、好きって感じだよ」
と答えた。
「そっか」
と彼女。
「え?なに?急にどうしたの?」
とおどおどする俺。
その後はよく覚えていない。いやはっきり覚えているけど、思い出せないのかもしれない。とりあえず、彼女は泣いてた。そして、俺はなんでお前が泣くんだよと思ったのは覚えている。下を向いて泣いてた。なんで泣いてたんだろう。俺も泣きそうになったけど、泣かなかった。
結局俺はよく彼女といく定食屋に来ていた。もしかしたら彼女も来ているかもしれないと思ったが来ていなかった。この前会ったときにしたセックスが最後のセックスになってしまったと思った。そのとき彼女は水色のブラとピンク色のパンツを履いていた。
いつも彼女が食べる和風ハンバーグ定食を頼んで食べたけれど、俺がいつも頼んでいるアジフライ定食の方が美味しいなと思った。店を出るときに上着を羽織ろうとしたけれど、もう嫌だなと思った。それで感情が終わるわけではないのかもしれないが、俺は彼女からもらった上着を着ずに、小脇に抱えて店を出た。めちゃくちゃ寒かった。でも、着たくなかった。別れを切り出しておいて泣くような女からもらった物を着たくはなかった。そのままセカストへ行って、そのダウンを売った。別にいくらでもよかった。数千円くらいになっただろうけど、もう手放せればなんでもよかったが、そこらへんには捨てないで、売りにいくようなところを彼女は嫌っていたのかな、と思ったが、別れを切り出しておいて泣くような女には言われたくはないと思い直した。
このままもうやることもないし、家に帰ろうかと思ったが、帰っても悲しくなるだけだと思ったので、彼女といつも定食屋の後にいく古着屋へ立ち寄った。彼女とよくコーディネートとかの話をしている女性店員さんがいて、その人に「あれ?今日は彼女さんはいないんですね?」と尋ねられたが、俺は「あ、はい」と答えた。気分も沈んでいるし、買うことはないなと思いながら、バーっと服を見ていると、俺が彼女にあげた赤いコートと全く同じものが売っていた。嫌だなと思った。また悲しくなってきて泣きそうになった。「これ珍しいですよね、赤いダッフルコート」と店員さん。うなずく俺。「着てみますか?」と店員さん。なぜかうなずく俺。俺はさっき別れた彼女と同じダッフルコートを試着して、もうなんでもいいやと思っていた。そして、「このコートいいですね」と店員さんに言い、「ください」と言った。「そのまま着ていくんで」と店員さんに伝えて、お金を払い、店を出た。外では雪が降っていた。寒さ的にはコートを買っておいて正解だなと思った。家へ向かって歩く。赤いダッフルコートを着て歩く。
家について鏡の前でもう一度赤いダッフルコートを着た自分を見て、俺は思った。俺は自分で別れを切り出しておいて泣くような女が好きなのかもしれない。悔しくて泣いた。
三軒茶屋のpulp vintageで購入
90s ラルフローレン赤ロングダッフルコート