枝毛が多い髪の毛はきれいに燃えないので
念入りに抜いておかなければなりません。
抜いた枝毛はすべて
隅田川にばらまいてしまいました。
からだをこういう形で棄てるのは
遺棄でしょうか。
それとも不法投棄でしょうか。
ペールグレーで塗った爪が光って
ここが夜だったことを思い出しました。
こんなに暗い夜が東京にもあったなんて。
誰かにこの感動を教えてあげたくて 携帯電話を起動します。
かしこい電話はわたしに友達が
いないことを教えてくれるので
液晶を撫でる指先がやさしくなっていきます。
いつからこんなことになってしまったのでしょう。
二度と会うことのない人たちばかりが
洗いたての衣服のように積み重なっていました。
ほら、みてください。
もうすぐスカイツリーを追い越しそうです。
おとうさん、おかあさん、
東京はほんとうにさびしいところでした。
生きているうちに元を
取れるひとなんてここにはいないんです。
だからみなさんわたしの棺桶に
お金を入れてくれたんですよね。
だれかの衣服のままでも
安心して天国に行けますように、って。
ありがとうございます。
言葉だと泡になってしまうので
目で言いました。
遡上するあいだは
水の匂いだけが頼りです。
身に覚えのない記憶だけが
わたしをつなぎとめるものでした。
濁流のなかで髪の毛が燃えています。
この日のために伸ばしておいたんです。
きれいでしょう、火が。
燃え残ったからだは
ここにおいておきますから
みなさんの好きにしてください。
そのかわり　わたしは
わたしのたましいを好きにします。

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