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第1回 ボタンについてのショートショート 〜お金が足りない田上友也と、彼の古着の年〜

田上友也

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 この企画は古着好きの詩人・田上友也が自分のお気に入りの古着から着想を得たショートショートを綴っていくコーナーです。


「ねぇ、お父さん、僕はどうして生まれたの?」
 とあつしは息子のしょうごに聞かれた。
 えーっとね、まずしょーくんの始まりはお父さんとね、お母さんがはじめて出会った大学の新歓からだね。そこでね、お父さんはお母さんを初めて見たとき、あーなんかチェックのワンピースを着てるなと思ったのね。それがしょーくんの始まり。で、そのあとデートしたりして、付き合うことになって、まぁそれなりにね、ケンカとかもしたけど、何回か物投げたりしちゃったこともあったりね、未だにお母さんに言われたりするよ、でも、お母さんだってね、俺のこと引っ掻いたりしたんだよ。でも、お父さんはお母さんのこと好きだったし、たぶん、お母さんもお父さんのこと好きだったから、結婚したの。で、結婚する前から、たくさんセックスはしてたけど、本当にたまにコンドームなしですることがあるくらいで、ほとんどは避妊してたのね。でも、結婚するのが決まってからはあんまり避妊しなくなったの。それで、しょーくんが誕生したの。でも、お父さんとしては、しょーくんの始まりはあの新歓だと思うんだ。しょーくんにはわからないかもしれないけどね。
 と考えていたけれど、それは言わずに
「お父さんとお母さんが好き同士だからだよ」と言った。
 たまに家族でお出かけするときに着て行く服がある。あやはあまり気に入っていなくて、なんかおじさんぽいからやめた方がいいんじゃない?と言ったりするけれど、あつしはその服が気に入っていた。背中にアクションプリーツがついていて車を運転するのも楽だし、生地もしっかりしていて、ウエストのところにベルトも付いている。ノーフォークジャケットと言って、昔の人が猟やゴルフで実際に使っていたのだから、あやがおじさんぽいというのもあながち間違いではない。
「ねぇ、お父さん、なんでここにボタン付いてるの?」
 としょーくんは聞いてきた。あつしもこのジャケットを買うときに店員さんに同じことを尋ねたが、店員さんもよくわからないと言っていた。あつしはしばらくそのボタンについて考えていた。全く意味のないただの飾りのように見えるそのボタンは本当に何の意味もないものなのだろうか。猟用に作られたジャケットだから、おそらく何かしらの意味があるのだろうと思うのだが、よくわからない。このジャケットを作った人が気まぐれで付けたものなのか、実用性があるのか、デザインなのか。あつしはとても不思議に思った。そして、なぜだか、あつしはしょーくんが生まれた理由みたいなものと関係があるのではないかと根拠ない確信のようなものがあった。あつしがあやと出会ったあの新歓のチェックのワンピースみたいな役割がこのボタンにはあるのではないか。結婚をする前のセックスと結婚した後のセックスの微妙な空気感の違いがこのボタンの役割なのではないか。そのような妄想に取り憑かれたが、実際のところは、ポケットのフラップを常に開けた状態に保つために付けられたボタンであることをあつしは知っていた。だから、
「あーこれね、これはこのポケットフラップ、このぴろぴろしているところを上で留めておいて、中の物が常に取り出せる状態にしておくものなんだよ」
 としょーくんに言った。
 しょーくんは
「すごい!すごい!これお父さんが作ったの?」
 と言った。
 あつしは
「違うよ~。でも、これ作った人すごいよね」
 と言った。
 あやは
「確かに言われてみれば凝ってるね」
 と言った。


商品名:ダービーツイードノーフォークジャケット

straysheep有楽町店(https://www.instagram.com/straysheep_yurakucho/)で購入

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