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第7回 基準についてのショートショート 〜お金が足りない田上友也と、彼の古着の年〜

田上友也

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 この企画は古着好きの詩人・田上友也が自分のお気に入りの古着から着想を得たショートショートを綴っていくコーナーです。


 まゆは車の助手席に座りながら、

「なんで服の素材聞くの?最初に行った古着屋の店員さん困ってたよ(笑)」

 と実際は俺に聞いているのだけれど、俺に聞いているのかどうなのかはわからないトーンで聞いてきた。

 俺は

「え?まゆは気にしないの?」

 とまゆの方を見ずに、運転にほとんどの神経を使いながら聞いた。

「私は特に考えたこともない」

 とまゆは言った。

 俺は服を買うときに製品タグを見て、その服がなんの素材でできているのかを確認する。俺はそれが普通だと思って生活してきたし、これからも生活していくつもりだったから、その質問をされて驚いた。

 俺が何故素材を気にするのかの答えは単純に長持ちするからだった。それ以外にも、自然素材の方が体にいいとか、使い込んだときの化学繊維では出せない風合いがコットンやウールにはあるからなどもある。でも、長持ちな服がいい服なのかはまた別の話なのか、とまゆの返答を聞いて思った。

 俺はこのように考えていたと思うが、実際そのときはこういう風にしっかり考えているわけではなく、赤信号とか、青信号とか、横断歩道を渡る人に注意を払ったりしていた。

 俺は

「うーん、長持ちするからかな。後は風合い」

 と答えた。

 カップがびしょびしょに濡れたアイスコーヒーを飲みながら、

「そんなの気にする人初めて会ったわ」

 とまゆは言った。

「じゃあまゆはどういう基準で服を選んでるの?」

 と俺はウインカーを出しながら聞いた。左うしろにバイクがいないか確認するときに、まゆの少し透けたおしゃれなトップスが見えた。どんな表情をしていたのか思い出せない。

「そりゃ、デザインでしょ!」

 とまゆは言った。左折するときに、バイクを巻き込んで交通事故に遭うのは本当に嫌だなと思う

 俺とまゆはセフレだけど、あまりデートとかはしたことがなくて、今回はなんかノリで、お互いの好きな服屋を見に行くことになった。確かに、まゆはお洒落でセックスをするときにどうやって脱がしたらいいのかわからない服を着ていることがあったけれど、どうせセックスをしているときは裸だし、特に気にしてはいなかった。

「今まであんまり話してこなかったけど、たくみって服好きなんだね」

「確かに、服好きだな。金欠になるくらい。まゆにホテル代払ってもらったりするレベルだからね」

「いや、あれ服のせいで金欠だったんかい!今日は大丈夫だよね?私、服さっきしこたま買ったから、今回は私の方が金欠だよ」

 さっき一緒に探したラブホテルまで後3キロ。400メートル先を左折です。

「いや俺だってしこたま買ったからね!今日もまゆのお金で泊まらせてもらうわ!」

「おい!ふざけんな!」

 その日は結局俺が払った。

 セックスの後に俺はまゆの寝顔を見ながら考えていた。恋人っていうのはどういう基準で選ぶのだろうか?

 素材か?

 長持ちするかどうか?

 デザインか?

 そういえばまゆは素材も良くて、デザインも良くて、長持ちしそうだなと俺は思った。

 でもまゆのことを服と同じレベルで考えている時点で、セフレくらいがちょうどいい関係なのかもな、と俺はぼんやり考えていた。

 それからどれくらい後だったか覚えてはいないけれど、まゆから

「ごめん〜、彼氏できたからもう会えないや〜」とラインが来た。

 俺はふざけて撮ったまゆとのハメ撮りで抜こうとしたけど、まゆの素材とデザインと長持ちするかどうか?だけが動画から俺の頭に入ってきて、全然勃起できなかった。


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