この企画は古着好きの詩人・田上友也が自分のお気に入りの古着から着想を得たショートショートを綴っていくコーナーです。
ありさは
「え?これ汚れてんじゃん?!」
と言った。
俺は
「いや、この汚れだから安く買えたし、実際革は最高級だし、シルエットもいい、デザインもいい、元々もっと高く売っていたのが、今回だけのセールで特別価格だったんだよ」
と言った。
ありさは
「でも、、汚れてない?」
と言った。
「確かに汚れてるけど、おじいちゃんから受け継いで着てるんだよ感出せばいけるし、それはそれでありかなと思ってさ、結構気に入ってるんだよ、遠目じゃわからないでしょ」
と俺は返す。
ありさは、いやでも~という顔をしていたけれど、俺が汚れている服を買ってくるのはこれが初めてではないから、半分諦めているのかもしれない。
俺はありさが初めての彼女だったから、俺はありさで童貞を卒業したことになる。ありさは俺が三人目の彼氏だったから、ありさは俺とやるときにはもう処女ではなかった。
俺はありさが処女であって欲しかったと思った。だからと言ってそれを彼女に伝えたりはしなかったけれど、なんか悔しかった。それがなぜ悔しいのかはよくわからなかったけど、ありさに他の男がいたことがとても嫌だった。俺はありさのことをそのときほんの数秒、もしかしたら数分、いやもしかしたら、数時間、いやもっとかもしれない、数日かもしれない、とにかく覚えていることができない時間のなかで、彼女のことを汚いと思ってしまった。俺はそれをとても後悔している。しかし、俺はそれを後悔するしかなかったとも思っている。なぜなら、彼女に他の男が過去でも、未来でもいることがそのときはどうしても許せなかった。
今、俺は大人になった。ありさとはずいぶん前に別れてしまったし、ありさもそのときより大人になって、彼女は今どんな女になっているだろうか。俺は大人になった。大人になって、この文章を書いている。もしくは、大人になったけれど、この文章を書いている。もしくは、見た目は大人になったが、大人にはなれず、この文章を書いている。それとも、大人になんてなることは実際はできなくて、それでも社会とか体裁とかそういうのが嫌で、これを書いているのだろうか。
いまだに汚れたジャケットは気に入って着ている。汚れも最初に買ったときよりも増えている。俺はありさの次にまなと付き合って、その後みさと付き合って、今はりりあと付き合っている。りりあは処女だった。俺はりりあが四人目の女だった。あのときのありさよりも人数が多くなっていた。あまり良くないとは思いながらも、りりあに聞いてみた。
「俺がりりあと初めての人じゃなかったのって、りりあは嫌だ?」
りりあは特にこちらを向かずにケータイをいじりながら答えた。
「え?なにそれ笑別に全然気にしてないよ、だって、今は私がゆうとの彼女でしょ?」
その答えに俺はびっくりした。俺はりりあが処女でよかったと思った。そして、俺ははじめてがありさじゃなくて、りりあがよかったとも思っていた。そしたら、お互い初めてだし、良い感じだと思ったが、なぜそう思うのかはよくわからなかった。
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